ジュウニブンノイチ_Episode 4/12




俺の親友、広谷逸斗のこと。



最近、逸斗の様子がおかしい。
前ならもっときつい言葉で、弥夜子さんのことを悪く言っていたのに。
相談しすぎたのかな…俺、何かしたのかなぁ。



思えば中学2 年の今ぐらいの季節だ。
「そん時、たらたらたらたら、ばばぁが前歩いててよー」
「も、すっげ邪魔なの。でさー」
クラスメイトがまたどうでもいい話をしている5 人くらいのグループの中に俺はいて。
ふーん、そう、あはは、と毎度のごとく相槌を打って適当に流していた。
そうしたら、視線があった。
ものすごい目で、話してるやつらを睨んでいた、くるくるした髪の毛のクラスになじんでないやつ。
おまえも同罪だ、と言ってるような目つきで、でもそれに気付いたのは俺だけで。
そいつの背中に隣のクラスの女子がへばりつきながら、小さく、「気にしないの、十希」と、
そいつの頭を撫でていた。そいつは少し目を伏せて、ふいっと顔を俺からそらした。
気にしだしたのは、その時から。



「あのね、十希…じゃない、坂田君は、おばあちゃんっこだから、あんまり…その、…」
へばりついた女に、放課後たまたま下駄箱で出くわしてそう話を聞いた。睨まれた原因を知りたかった。
ああ、なるほど、と思った。侮辱の言葉に聞こえたんだろう。
「大丈夫、俺は別にあいつらと同じではないから。」
そう言って返したら、ぱ、と赤くなって、女は向こうで待ってる坂田とやらのところへ走って行った。
もう俺をにらんではいなかったけれど、そいつは不思議そうな顔をして俺を見て、
その女の話を聞いて、また俺を見て、ばいばい、と手を振ってきた。
俺も少し手をあげてそれに返した。
別に何か、事件があったわけでもない。衝撃的な出来事でも何でもない。
でも俺はその時、とても口の端が歪んだのを覚えている。
めずらしい綺麗なものを見つけた。
だから、手に入れたいと思った。




「背、あんまないから駄目なのかな…」
「そういうんじゃないだろ」
「理数系駄目だから駄目なのかな…」
「もっと関係ないと思うけど」
「逸斗がうらやましーよ。おれお前みたいになりたい。絵、描けて、頭良くて、背高くて、」
「絵って何か得になる?」
「ちゃんと世界になるじゃん…おれ、そういうの一個もない」
「なにかがなきゃ付き合う価値がない、っていう発想が駄目なだけだろ」
沈黙ののち、苦笑。
「だって、俺なんにもないのに、弥夜子さんが好いてくれるわけない」
沈黙。そして
「だから、そういう発想が」
俺の苦笑。


(2010.08 初出)