ジュウニブンノイチ_Episode 7/12








すべてうまくいくと思っていた、なんて嘘だ。
夢見ごこちの頭でずっとぼんやりと停まっていただけだ。
しあわせ・しあわせ・愛してる
それさえ思っていればこのままずっと変わらないのだと
ひたすら唱えていただけなんだ。
なんて無力。



10 月3 日、18 歳の誕生日。弥夜子さんは消えた。
2 回だけ入れてもらったマンションにはもう誰もいなかった。
最後の中間テストが終わった。
俺はひどい点数を取った。内臓の具合も最悪だった。
11 月の終わり、夕焼けが真っ赤過ぎて帰り道によろめいた。
隣にいた逸斗が肩を貸してくれて俺は思わず泣いた。

「もう嫌だ。もう俺はどうしていいかわからない、どうなればいいのかわからない」

ぶつぶつぶつぶつ呟いた言葉と同じ数だけ涙が出た。
逸斗は黙って俺の頭を柔らかく小突いた。

「金かな、歳かな、立場かな、俺に何があればよかったのかな」
「あるなしで決めるのは違うだろ」
「そもそも俺じゃあなにもかも駄目だったのかな、はじめから」
「それは誰にもわからないよ」
「なんで俺じゃ駄目なんだ、って、言えるほど俺なんもないんだよ、
わかるんだよ、これっていう何かが何もないんだよ、
そんなんじゃ駄目だってわかってるんだ、自信がなくちゃなにも映えないって、
でもそんなのどうやって持てるのかさっぱりわかんないんだよ、
俺ばっかり大好きで大事に思ってて切羽詰まってて、向こうは余裕でかわして、
最後にはドロンて消えて、俺、おれ弥夜子さんのなんだったのかわかんな」
「そっくりおまえにそう言いたいよ」
「?」
「俺はずっとお前しか大切じゃないよ」

日がとっくに暮れた真っ暗な遊歩道の下。
もう冬が来ると風が目の前を走り去った。
つられて俺も駆けだしていた。
もう俺に居場所はないと思った。







本当は死ぬまで言うつもりなんてなかった。
言ってどうこうしたいわけでもないし、
伝わらないってわかっているし、それに憤ることもないから。
あの日からみるみる痩せていった十希は、
ろくに飯も食わないし、眠りもしなかった。
真奈花は察するだけ察していたみたいだけれど、
それでも普段をくずせずに明るく接していて。
十希はそれに応える。ひきつって切れた乾いた自分の唇にも気付かずに。
十希が笑うたびにぐしゃりと潰れていくのが分かった。
音と一緒に血があふれていくのも分かった。
分かったのはきっと俺だけで。
十希自身自分に目を向ける余裕はなかっただろう。
言ったら混乱させるだけだと、
わかっていたのに。
伝えずにはいられなかった。それは、
「だからそんな馬鹿女は忘れて俺に甘えればいい」だったのか、それとも
「だからそんな馬鹿女じゃなくて俺を見てほしい」だったのか、それとも、
…考えて、やめた。
だって言ってしまったらもう、すべて終わってしまうのに。
だから言ってしまったからもう、すべて終わってしまったのに。


(2010.11 初出)